認知症について修正して欲しい過ちを挙げていきます。まず、認知症になる人は特定の人ではないということを前回に述べました。そうではない、いい見本があるのです。最近、世界的に著名な人々が自分が認知症になったことを隠さなくなりました。これはありがたい、勇気ある行動です。今までのように隠さなくてよくなったのです。イギリスのサッチャー元首相が認知症になったことを公表したのには驚きました。それからほかにもアメリカのレーガン元大統領、刑事コロンボのピーターフォークなど大勢の方がこの病気になっています。これはやはり病気なのです、決して個人の責任ではないことを強調しておきたいものです。

次にこの病気になるといわゆる瘋癲(ふうてん)老人になってもう悩むこともなく好き勝手に暮らせる。これも大変な間違いです。実際は、この病気になると毎日恐怖におののいた生活になるようです。初期はまだそれほど明らかな障害はなく、穏やかな生活を送れますが、末期の状態になると顔をしかめて歯を食いしばって体を固くしている状態になってしまうのです。何が起きているのか全く分からない状態ですから不安におびえるのは当然ですが。アメリカにボブホープという人気俳優がいました。頭の回転の速い人でトークショーを得意にしていました。その人が久しぶりにテレビに出てきた時、その変貌ぶりに驚きで声を失いました。あんなに表情豊かだった人、回転の速い機知に富んだ会話を売り物にしていた人が、顔をしかめてあらぬ方向をにらみつけていて無反応のまま固まっていたのです。悲しいことですが、最後は部分的にしか記憶が残らず、記憶の島と言われる状態になってしまうのです。ムーミン谷の十一月という小説でヤンセンはスクラッタおじさんという気難しい老人を登場させていて、この人はなんでもすぐ忘れてしまう。でも自分の名前を忘れることは素晴らしいことです。と書いています。おそらくヤンセンは身近に認知症の人がいなかったのでしょう。記憶が無くなって自分が誰だかわからなくなるのは大変な恐怖なのです。

80代に入ると4人に一人がこの病気にかかります。いったん始まると慢性進行性でよくなることはないのです。しかし、病気にかかった高齢者を山に捨てるようなことだけは現代では許されません。それならどうしたらいいのでしょうか。
私は、認知症の方の治療では、家族の人のサポートが大事だと思っています。家族が認知症のケアをするのはじつは好ましくありません。積極的に公的なサーヴィスを利用するように指導します。世間の人がとういおうと一切気にしないようにアドバイスします。世間の人は助けてはくれないのですから気にする必要はありません。高齢者が高齢者を助ける、これも間違いです。健常な高齢者は認知症の方には冷淡です。また、遠くで暮らす身内もいけません。実情を知らずに介護している家族を非難することが多いようです。また、母と娘のような家族同士ではお互いに甘えが出てしまい、遠慮がないので、つい衝突を繰り返すようになるので避けましょう。介護する家族には休息が必要なのです。

治療法としては抗痴呆薬があります。何もないよりは救いですがまだ不完全です。いろいろな研究がされていますのでそれを待つようにしましょう。
認知症の介護をするコツがあります。これを強調しておきたいのです。とにかく直さない、叱らない、試さない、これに尽きるのです。佐藤愛子さんの娘さんが書いていますが、お母さんなんで私のことをお姉ちゃんと呼ぶの、私はあなたの娘よ。この気持ちよく判ります。涙なしでは聞けません。でもこれは我慢してください。私も同じ経験があります。家族はパニックになります。でも、でも、これは受け入れましょう。血相変えて修正しようとすると敵になってしまうのです。次回もう少し認知症に触れます。