水原 一平氏の事件でギャンブル依存が大きく注目されるようになっています。彼は大きな犠牲を払いましたね。こんな破滅を迎える人は異常な性格の人と一般では思われています。ところが、このギャンブル依存も脳の病気なのです。アルコール依存で触れましたが、脳内のドパミンという神経系の異常が起きているのです。いったんこの病的な回路が出来上がるともうコントロールができなくなってしまうのはアルコールと同じです。親しい人からの説教や懇願、本人の意志の力は無力になってしまいます。ギャンブル依存が脳の病気であることは、思わぬことから証明されるようになりました。最近パーキンソン病にドパミンアゴニストという薬物が第一選択薬として頻回使用されるようになってきていますが、この薬物は脳内のドパミンを賦活するのですが、この薬物を服用した人の中にギャンブル依存を発症する人がいることが判ってきたのです。アゴニストを投与されるまでは一切ギャンブルと関係なかった人がギャンブル依存になるのです。

 私が今回の事件で痛切に思うことはいったんギャンブルを始めてしまったときにしてはならないことは取り返そうとしないということに尽きるのです。

 ギャンブル依存が始まるきっかけには思いもかけない大儲けをすることです。その成功体験がずっと味を占めていてその後、失敗を繰り返しても一回大当たりをすれば取り返せると信じてしまうのです。そのため起死回生のチャンスを狙っては大金をつぎ込むようになるのです。水原一平氏の掛け金の推移というのが明らかになっていますが当初は小遣い程度の賭けだったようです。それがどこかでいい目をして癖になったのでしょう。けっきょく、彼は総額で216億円は設けているのです。しかし、損失がそれを上回ってしまい240億円に上っています。彼は何とか取り返そうとしてもがいていたのは確かでしょう。どんどん一発逆転を狙って危険な賭けを続けていたようですから。教科書的にはこの病気のコースも判っていて最初がウイニングフェイズ;得意満面で価値を続けている時期です。それがロスフェイズ:損失を穴埋めするためにもがき、借金をし、仕事でミスをし、それでもギャンブルを続ける愚かなギャンブラーになり下がる状態になり、次には絶望フェイズ:返却不能な額までの借金をしてしまい、人間関係を失ってしまい、ついに最終フェイズには借金を公表せざるを得なくなるとあります。

 水原氏はこの教科書どおりのプロセスを歩いてしまったのです。

 困るのはギャンブルは人の生活になくてはならないものだということです。脳の安全弁として機能していることを以前にも書いたことがあります。それならどの時点で正常なサイクルから逸脱しているのかを識別しなければならないのですが、現段階では、はっきり指摘することができないのです。たいていの人がまさか自分が依存症だとは気づいていないことが一般的です。だから自分は違うとあまり自信を持たないことが必要なのでしょう。

 この取返しをしない、勇気をもって負けを認めることがどんなにむつかしいかは私自身経験しております。皆様はバブルのころのことご存じでしょうか?その頃は大変な株のバブルでわたくしがいた職場では昼休みに全員で株式ニュースを聞いていました。一日に三十万儲けたとかいうことが珍しくなかったのです。株は永遠に上がると信じていました。それがある日突然の大暴落、そこでやめた人はいませんでした。私も含めてほぼ全員が成功体験があるので、それまでの利益をすべて株につぎ込んでリベンジにかかりました。やればやるほど損をするのですが、必ず最後は報われるという信仰のためやめれないのです。だから敗北を認め引き返す勇気はとても重要なのです。身にしみて感じております。