今回は今、精神科診療で流行の治療法マインドフルネスをご紹介します。精神療法にも流行りすたりがあるのもおもしろいですが、これは自分の心の状態を外から観察してみようというものです。治療だけでなくストレス対策として企業などでも取り入れられています。神経症、パニック障害、慢性疼痛などのストレス関連疾患にはこのマインドフルネスは非常に有効だと私自身も感じています。皆さんは心にスイッチが入る瞬間に気づかれていますか?人間には自動思考というのがあってスイッチが入ると同じパターンの行動を始めるのです。夫婦喧嘩のパターンもすべてこれで、だいたいお定まりのコースがあります。ボーリングのガーターを転がるボールのようにいったんはまるともう止まりません。気が付いてみるとまた同じことをしていたとなります。このスイッチを入らないようにするのが、治療上とても大切です。ここでお釈迦様が出てきます。マインドフルネスは仏教由来の治療法なのです。仏教は日本よりも海外で高く評価されているというのも面白いですね。おしゃか様はスイッチが入るのを防ぐ方法を述べていて、まるで精神科医のようです。ちなみに私は一般の日本人で特定の宗教に利害を持っていないので仏陀についての話も警戒なしに読んでください。ブツタ最後の旅という本によると、彼は人生に苦悩はつきものであると述べ、その苦悩から逃れるために、まず苦悩を定義しています。とても近代的ですね。そして次の段階では苦悩を知ることが重要だと述べているようです。そして苦悩は何から生ずるかを分析し物への執着から生ずるとやっております。執着から生ずる思いは満たされない願望につながり、それが喪失感、不安を生むと教えています。なんとわかりやすい合理的な教えでしょう。ただただその近代性に驚きます。そしてそのすべての執着を捨てることが苦悩からの解脱につながるとまとめております。この執着を捨てる治療法は森田療法という日本で広く使われる精神療法でも取り入れられており、実は僕にはなじみ深いものでした。執着を捨てて自分のあるがままを受け入れ失敗を恐れないことを勧める治療法ですが、その根源がおしゃか様にあると知り刮目しました。
さてマインドフルネスの実践の紹介を簡単にします。それは前述のように自分を外から観察し、心の状態を認識し受け入れようというものです。日常生活では、いろいろな考えが浮かんできて未来に対する不安やすぎてしまった過去に対する反芻の世界に飲み込まれてしまうことがよくあります。すると目の前の現実が見えなくなりますが、我々は通常そのことに気づかないのです。そのとき今ある現実に注意を向けて不安の根源を遮断するという技法です。自動思考が始まるともう止まらなくなりますが。そのスイッチが入ったことを我々は自覚しないのです。だから、まずスイッチが入ったことを認識するのが大事です。そして現実に目を向けるためにマインドフルネスでは呼吸を使います。体の力を抜いたうえで呼吸に伴う腹部や胸部の動きに注意を向けることで自動思考に入るのを止めます。体の中に入ってくる空気にはいろんなものが含まれています。陽の光とか温度とか、風のささやきとかそういう健康な部分を感じるように注意を集中することでスイッチを切ることができるというものです。ただ、実践するときには自分勝手にせず、経験者の指導が必要なことも付け加えておきます。もう一つ余計なことですが、おしゃかさんという言葉を出すと患者さんはなぜか腰が引けるようです。おしゃか様の代わりに禅という言葉を出すとこれは受け入れやすいようです。不思議なことです。